2013年08月29日

クーブぬフカヌヒシ

ようやく台風も通り過ぎましたが波はまだ高く、あとしばらく漁も休みになります。ところでダイバーのみなさん、吐き出したエアーが水面へとは流れずに、真横に流れ去る海で潜った経験はありますか?。

その海とは「クーブぬフカヌヒシ」と呼んでいますが、ダイバーの間では「パナリtoパナリ」で広く知れ渡っているはずです。東平安名崎左側にあるパナリ干礁を佐良浜方言でクーブと呼んでいますが、クーブぬフカヌヒシを訳すと「クーブの沖の根」となります。

パナリ環礁から北側に掛けての海域は、引き潮狙いで漁場として頻繁に使用していますが、クーブぬフカヌヒシはおそらく宮古島周辺の海の中でもっとも潮の流れが速い海なはずです。

ここは波が穏やかな日でも大潮が重なると潮波ができ、そこを船で通過しても何というか、船ごと海中に引き込まれそうな感じがするくらいのものすごい潮の流れる海です。

漁を行うにも潮の流れが穏やかになる、旧暦の毎月9~11日の3日間くらいしか基本的にチャンスはありません。そのため波浪と潮廻りが上手いぐらいにマッチしないと漁を行うことができません。アギヤー漁も年間を通じ1~2回できれば良い方です。

いつだったかは記憶が定かではないのですが、上記の二つが上手いぐわいに重なりそこで漁を行うことになりました。このポイントの特徴として、海の中が常にパチパチと何かが弾けるような音を立てています。

これまでの経験からして、このパチパチが響く海は潮の流れが速い海に多く見られる現象ですが、何がそうなっているのかはわたしにも分かりませんし、他と比較してもここのパチパチは特別大きな音を奏でています。

クーブぬフカヌヒシ

そしてまた圧巻は、個々の魚種の大きさがこれまた他と比較してかなりバカでかいことです。生物学者ではないので詳しい要因は分かりませんが、おそらく潮流の速さと関係しているのではないでしょうか。

ここで生きていくためには個々の魚種も力強くなくてはならないはずです。そのため身体が大きく力強い物だけが暮らせるのでしょう。サメもよそとは比較にならないくらいのバカでかい奴が現れるし、グルクンもすべてがデカグルクンだけです。

さらなる特徴として珊瑚があまり育たない環境なようです。これまた潮流の速さと関係しているようで、余所でも潮流が早い海域では珊瑚の生育はあまり見られません。

ただしここは岩がゴロゴロしているごろたな海で、しかも潮に削られてすべてが丸みがかっていて、重なり合った岩のその隙間が彼等の宿になるのでしょう。珊瑚が棲息しない割には比較的魚影は濃いです。しかも大物ばかり。

さらに干満の潮流の流れの変化がいちじるしく早いことです。余所の海域での干満の変化は潮の流れる方向が時計回りに、徐々に右回りで変化していくのですが、ここはいきなりです。あっという間に干満の流れが変化するのです。

そして干満の境目からの潮の動き出しも、余所では緩やかな流れから徐々に強い流れへと変化するのですが、ここはあっという間に速くなります。

説明はこれくらいにして、その日は天気も快晴。波も穏やかな旧暦11日の日だった。引き潮狙いでクーブ北側海域にやって来たわれらアギヤー漁は、潮も緩やかだったのでクーブぬフカヌヒシへチャレンジしてみることにしました。

クーブ北側海域の潮が緩やかだとしても、ここだけはいつも潮が強烈に流れているし、とにかく行くだけ行ってみようと。到着すると潮波もなく穏やかな海面で、泳いでみると漁が可能な状況でした。

クーブぬフカヌヒシ

グルクンを見つけ網を設置し、ダイバー全員が母船へ移動しさあいよいよ追い込み開始です。一人ひとりが走っている母船から間を開け等間隔で海へと飛び込んでいきました。

潜るとそこにはものすごい数のデカグルクンがかたまっているし、奴らを網へと追い込んでいたら潮が突然動き出してきたのです。それを感じたかと思うのもつかの間、潮の流れは突然激流の川のように、雄叫びを上げるがごとく狂ったように変化してしまったのです。

われわれダイバーもまるでボーリングの玉のようにゴロゴロと潮の流れに翻弄され、真っ直ぐ泳ぐことすらできない状態です。そしてそれまでかたまっていたデカグルクンも、この潮から避難するかのごとくわれわれの前から消え去ってしまいました。

翻弄されながらも網に到着し、まず袋網を浮上させることに取りかかったが、これがまたとんでもないことだったのです。袋網を固定するために岩に巻き付けてあるロープが、潮に押されかなりの抵抗となった袋網の負荷でびくともしないのです。

船から包丁を取ってこいとの手の合図で真上にいる船に浮上しようとも、このまま浮上しては水面に到着した頃には、船から遥か潮下へと流されてしまうのは目に見えています。

その船のアンカーロープを伝って浮上しようとすると、まるで潮が上から押さえつけているような感覚で浮上すらできません。吐き出すエアーも上へと昇らず真横に流れていきます。そうこうしているうちに、誰かが岩を持ってきてそのロープを叩き切ることができたのです。

袋網を浮上させ、それから各々の船の袖網を浮上させたのだが、潮に押された袖網も浮上するのに時間が掛かり、ようやく一緒に水面までたどり着いたわれわれダイバーも、船がいる場所から遥か潮下へと流されていたのです。

すべての網を回収しここでの漁は不可能なので、違うポイントへと移動したのでした。


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Posted by insherman at 18:11│Comments(0)アギヤー漁
 
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